私が入院中一番仲が良かった人が、3つぐらい年下のF君という青年でした。
F君は白血病を患っていて入院退院を繰り返していました。
今と違い、当時、白血病は「不治の病」という認識でしたね。
その治療に使う薬も結構きついものが多いようで「辛い」という言葉をよく言っていました。
また、治療のためにクリーンルームと呼ばれる無菌室に数週間入るのですが、この期間は外界との接触が極度に制限されます。
「この間は孤独なんだよなぁ~」って呟いていたのが印象的でしたね。
最初にF君が白血病だということを知ったときには、腫れ物に触るように接していたように思います。
しかし、F君のその明るくサバサバした男らしい性格のせいか、いつしか病気を気にすることなく接するようになっていきました。
F君とはよくトランプやUNOをして遊びましたよ。
まぁ、時間はたっぷりとあるので一日中カードゲームです(笑)
しかし、ある日それもできなくなりました。
F君の目が病気のせいで失明してしまったんです。
「なんにも見えなくなっちゃったよ!」と笑いながら言う彼の笑顔が今でも脳裏に残っています。
辛かったですね。
それから数日後、彼は亡くなってしまいました。
彼のお通夜にはどうしても出たかったので、無理やり外出許可を取りました。
お通夜に参列するため、彼の家に行ってビックリです。
なんと私が入院している病院の看護師(女性)が受付をしているではありませんか。
お通夜のあと、事情を聞いて更にビックリです。
F君とその女性看護師は付き合っていたんです。
F君の担当看護師になったことがきっかけだったそうです。
この助成看護師はF君の余命がそれほど長くはないということを知った上でF君を好きになっていました。
デートもできないから消灯後、こっそりと病院の受付なんかで会っていたとのこと。
いろいろと話を聞きましたが、もう聞いているうちに胸が詰まってきて、私もなんとも切ない気持ちになったものです。
当時は3高という言葉が流行っていたと思います。
3高とは女性が交際する男性に求める条件のことで「高学歴」「高身長」「高収入」の3つに共通する「高」をとって、3高と呼ばれていました。
しかし、F君はこの3高とは無縁の男性でした。
しかも、白血病です。
それでも好きになる女性がいるわけですね。
このことを知ったとき「自分も結婚できるかもしれない」って思いました。
「B型慢性肝炎だから一生女性とは無縁で生活しなくてはいけないというのは自分の思い込みではないか?」
このように思うことができました。
闘病成果の中でほんの少しだけ希望がもてた瞬間でしたね。